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title. project 3-21 樂盌(無銘)

date. 2022

city. Tokyo

type. 樂

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前作の『暎発』は、横から見ると角や面が見られる厳格な雰囲気の茶碗だった。

その成形を終えたとき、やや安直ながら、次は丸くて手に馴染む茶碗を作りたいと思った。
それと同時に、今まで以上に表面全体の土肌の在り様にこだわろうと考えた。

2種類の目の粗い原土をブレンドした土を使って茶碗を成形していく。
しかし新しい土だったこともあり、まとまりが悪く造形に支障があったので、寝かせてあった赤土を追加でブレンドした。
茶碗の表面を削っていくと、粘土の中の小さな石がヘラに引っ掛かり、荒い削り跡が生まれる。
そのままでは無数の引っかき傷のような削り跡を一つ一つ吟味していき、不要なものは消してやり直し、「これは」と思えた肌合いだけを選んで定着させていく。
正面だけに限らず、すべての場所にそれぞれの景色を作っていくことを、土を柔らかく保った状態で仕上げていった。

茶碗の内側、見込みは一転して、静かでゆったりとした印象の削りを施した。
お茶を飲む際、飲み口から見えるのは内側の景色である。

落ち着いた気持ちになってお茶を楽しめることを目指した。

丸い茶碗の高台はいつもチャレンジングである。
最近だと『曙雲』では、全体の自由でおおらかな形に合わせる意味でも、いわゆる"高台"らしい高台を選ばなかった。

底部の膨らみに呼応した起伏を削り出して"高台"が点前中に果たす役割を担わせ、唯一無二の形となった。
今回の茶碗にはどのような高台が良いだろうか。
掌の中で自然とできた底面の起伏の合間、底面の中心に径のとても小さな高台を削り出した。
表面の土肌、端正な内側の削り、全体の形を鑑みて、あえて円形の高台を小さく配置することで、バランスを取ることを考えた。

そうしてできたものを素焼きし、施釉していく。

土肌を消さないこと、そして本碗が全体として温かい雰囲気をもっていることを大事にしたく思い、赤に焼くこととした。

テストを経て選んだ黄土と釉薬を丁寧にのせていき、鞴をふいて楽窯で焼き上げた。
還元味が強く、赤地に深緑が複雑に絡む色合いとなった。

 


瞬間的な想いや自然物(土や炎)との偶発的な応答の積み重ねが、視覚的にも触覚的にも感じられ、良い一碗になったと思う。​

​何より、お茶が美味しい。

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