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茶杓について

茶杓(ちゃしゃく)は、お茶をすくう匙のことです。

渡来前の中国においては金属製の薬さじ、計量スプーンのようなものだった茶杓は、日本において象牙製のものが広まった後、わび茶のおこりとともに竹で作られるようになったといいます。昔は茶会前になると新しい茶杓を亭主がこしらえていたと言いますが、今では専ら道具屋さんで買うものになっています。ここでは深く触れませんが、なぜ言わば「竹べら」に過ぎない茶杓が高値で売り買いされるのかというのは非常に興味深い問題です。

​まずは基本的な名称を見ていきましょう。

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※櫂先(かいさき)                  図1 茶杓の各部名称

こうした名称を覚えておくと、鑑賞時にその茶杓のユニークさを掴みやすくなります。「この茶杓は櫂先が急に曲げてある」「樋が綺麗に通っている」「節が下の方にある」「切止が斜めに切られている」などなど。各部の名称が決まると、それに基づいて分類して記号的に把握したくなるのが現代人の性なのかもしれません。例えば、節の位置によって、上がり節、中節、下がり節、元節、、などと分類されます。実際には、下図のように節上/下の比は無限にあるし、そもそも節を複数もつ茶杓もあり、分類それ自体にはあまり意味がないようにも思われます。直感的に見分けがついてきて、より自由に融通無碍に、よりその茶杓自体を自分の感覚で観ることができてくると、茶杓がさらに面白くなってくきます。

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​図2 節の位置はグラデーション

それでは、簡単に茶杓制作について説明していきます。

茶杓には、1)使用上の制約、2)素材上の制約があり、製作者としてはこれらの制約と向き合いつつ、理想の茶杓を目指すことになります。これらの制約を縫うように斬新な茶杓を作ることもできますし、制約にしたがってその範疇で美しい茶杓を作ることもできます。私自身のものも大きく分けると、使用や素材から発想した実験的な茶杓群と、制約に従いつつその時どきの美意識を反映した茶杓群が存在します。

【使用上の必要事項】

茶杓の唯一の機能は、「お茶をすくうこと」です。つまり、お茶をすくう部分と、持つ部分が必要となります。お茶をすくう櫂先の部分は、通常は竹を熱で曲げて、お茶が入った容器からスムーズにすくい出せるようなカーブが付けられます。このカーブが弱すぎても強すぎても、お茶がすくいにくくなってしまいます。櫂先の矯(た)め方(曲げ方)には「折り矯」や「丸矯め」、「二段矯め」など様々あります。持つ部分は、これも厳密にはいろいろな削り方をもって、より持ちやすく、より扱いやすくすることができます。加えて、茶道のお点前においては、茶盌や、棗や茶入、また畳の上に置いたりと、様々な場面で座りが良いことも求められます。

​【竹のつくり】

竹の構造を下の図を使って説明します。竹には節があり、そこから枝が一箇所ずつ、交互に出ています。そして各枝の上には樋(ひ)と呼ばれる溝のある場所ができます。この樋(ひ)は平たい場合もあれば、深くなっている場合もあり、線の通り方も色々ありますが、この樋をお茶をすくう面に使います。つまり節を一つ持つ通常の茶杓(利休さん以降、多くの茶杓が中節です)を想定すると、一つの樋につき上下方向に2本、茶杓をとることが出来ることになります。分類上は、枝の無い側のものを順樋(じゅんひ)の茶杓、枝の名残がついたものを逆樋(さかひ)の茶杓と言います。順樋の茶杓は、節に枝の名残がないので、シンプルな印象となります。竹自体に景色となるような印象的な色や模様がある場合、すっきりとしつつ面白い茶杓になります。一方、逆樋の茶杓は、枝の名残をどう処理(デザイン)するかということが一つの見どころとなります。

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​図3 竹のつくり

【素材特性】

​以下に、いくつか竹の素材特性を箇条書きにして説明します。

・繊維方向に直行する曲げには強い。逆に繊維方向に平行には曲げられず、簡単に割れてしまう。

・皮と身に分けられ、皮には或る種の熱塑性がある。火や蒸気で曲げて暫くその形をキープさせると、その形を保つようになる。

・身は繊維の束であり、感覚的には木に近く、皮に比べ折れやすい。ちなみに茶筅を作る際は、ある程度に割いてから、ポキっと折る。そうすると、身だけを折って剥がすことができるのだ。

・節付近は身が厚く硬い。素人の茶杓で、裏側の節付近が削り残って盛り上がっていることがあるが、それは硬いためであろう。

​・樋(ひ)については上の写真でも示したが、一応文章でも説明する。基本的に曲面である竹の表面に、節間につき1箇所、樋と呼ばれる、筋のある、平もしくはV字のように谷状に深くなっているゾーンが縦に走っている。それが節間ごとに180度交互に走っている。茶杓は節上に樋が通っていることが求められるので、一箇所の樋につき上下方向に2本だけ茶杓がとれる可能性があるのだ。樋が節上に求められるのは、恐らく平らもしくは凹になっている方が、茶を安定して掬いやすいからであろう。樋ではなくカーブがある面(格安の茶杓はこれを使ったものが多い)で茶杓を作ってすくうと、やや掬いにくいのがわかる。何より、節を挟んで同じテクスチャになってしまうので、つまらない。樋の筋が綺麗に入っていると、やはり格好良く感じられる。

・ものによっては節が他の部分に比べて太く、断面で見ると膨らんでいるものがある。この膨らみに合わせて削ると、節が凸の、極端にいうと「人」の字のような茶杓になる。この上がった部分を「蟻腰(ありごし)」という。この蟻腰を強調するかは、機能的というよりかは美的に判断されるものと考えている。どうしても蟻腰の部分は目立ち、軽やかな印象を与えるので、特に全体のプロポーションが変わっているものを作る場合は、プラスになるかマイナスになるか吟味する必要があると思う。

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